【後半】人のためのお寺を目指して〜伝統と革新がつくる少林山達磨寺の未来〜

お焚き上げ前のだるまが積み上げられた本堂 

縁起だるま発祥の地として、上毛かるたにもうたわれる少林山達磨寺。絵札には左目だけが入った「縁起だるま」と、上部には星座が描かれています。 

実はこの星座は、北極星信仰の本尊さまを表したものでした。 

群馬県民にはお馴染みの絵札の謎や少林山達磨寺のルーツを「七転び八起き」にちなんで、8項目に分けて副住職にお伺いしてきました。 

今回は、地域住民との関わりや今後の展望を探る後半5項目です。 

❹年間行事 

−少林山達磨寺の年間行事があれば教えてください。また、一般の方でも参加できるものはありますか? 

1月6日・7日の「少林山七草大祭だるま市」については先ほど触れた通りですが、1月15日にはだるまのお焚き上げ供養が行われます。複数の僧侶で行うこの法要は、その煙にあたると無病息災のご利益があると言われています。 

お焚き上げ供養自体は年数回行われていますが、1月15日は年末年始に納められたすべてのだるまをお焚き上げするため、3~4ⅿまで積みあがったその様子は圧巻です。最近だと「映え」を狙ってか、多くのカメラマンの方もいらっしゃってますね。 

4月8日の「花まつり」や、10月5日の「達磨まつり」も参加しやすい行事です。 

花まつりはお釈迦さまの誕生日をお祝いする行事で、お祀りしたお釈迦さまに甘茶をかけてお祝いします。諸説ありますが、お釈迦さまは母親が花園で休んでいるときに産まれたため、花まつりという名前がついたと言われています。 

また、10月5日の達磨まつりは達磨大師の命日で、達磨忌(だるまき)とも呼ばれます。諸説あるものの、達磨大師がお生まれになった日もこの日であるという伝説から、当山では縁起だるまの生まれたお寺として行事を行っております。 

この達磨まつりの午後には、お施餓鬼(おせがき)という餓鬼を供養する法要も行われますよ。 

※施餓鬼:死後、餓鬼道(がきどう)に落ちて餓鬼になった人や無縁仏など、飢えに苦しんでいる死者の霊魂に食べ物や飲み物などを施して供養する法会(儀式)のこと。 

他には、12月冬至の前の日曜日に行われる「煤(すす)払い」がありますね。いつも坐禅会に来ている方や近所の方が手伝ってくださって、新年を迎える準備をします。 

〈少林山達磨寺の主な年間行事〉 

1月6日〜7日 少林山七草大祭だるま市 
1月15日 お焚き上げ供養 
4月8日 花まつり 
10月5日 達磨まつり 
12月中旬 (冬至の前の日曜日に開催) 煤払い 

❺観光に関連する取り組み 

観光に関連する取り組みとして、インバウンド対応などで何か取り組まれていることはありますか? 

境内の表示には気を配っていますね。自分で外国語を話して案内できないまでも、訪れた方が迷わないよう、英語表記の案内や表示を備えました。 

だるまの絵付けに関しても、外国語の説明を用意しています。 

売店も併設されている「だるま絵付け体験」 

−外国人観光客の方は、どのようなきっかけで少林山を訪れているのでしょうか? 

すべての方にお伺いしたわけではありませんが、やはりだるまが入り口になっていることが多い印象です。本堂にだるまが積み上がっている様子をSNSで見かけて、「実際に見てみたい」と思ってくださることが多いようですね。 

本堂では大小さまざまなだるまがお焚き上げ供養を待つ 

他には、群馬県の取り組みに関連してインフルエンサーさんにご紹介いただくこともあります。おそらく群馬県の魅力あるスポットの1つとして、県の方も積極的にご紹介くださっているのでしょう。 

とにかく、人づてにご紹介いただくことが多いですね。SNSもある意味では口コミのようなものですから。 

❻地域との関わり 

−村の方が訪れる観音堂から始まった少林山達磨寺ですが、地域の方たちとは、現在どのような形で関わっているのですか? 

地域の方にご協力いただかなければできない行事も多いので、常に何かしらの形で関わりがあります。 

特に1月の七草大祭だるま市では交通規制も必要になるので、事前に書面や訪問などでお知らせしてご理解いただけるように努めています。 

地域の方に楽しんでいただくのも目的の1つなので、なるべくご迷惑をおかけしないようにしたいというところですね。 

−実は私も以前、早朝の坐禅会に参加させていただいたことがありました。その際近所の方もご一緒していたと思いますが、他にも日常の中で地域の方との繋がりを感じる場面はありますか? 

普段の散歩の延長で、参拝に訪れてくださる方が多いです。高台にあるので、昼間は高崎の街が見渡せて、夜は星がよく見えます。しかも自然も豊かなうえに、いつでも自由に出入りできますから。 

境内では自然や安らぎが感じられる 

もともとお寺というのは地域に開かれているもので、当然といえばそうなのですが、よく訪れてもらえるのは嬉しいですね。 

特に落ち葉の時期にはご厚意で掃除を手伝ってくださる方もいて、この地域の方々の生活の中に溶け込んできた、当山の長い歴史を感じたりしています。 

❼エピソードや逸話 

−少林山達磨寺に関して、何か特徴的なエピソードや逸話はあるのでしょうか? 

ブルーノ・タウトとの関わりは特徴的だと思います。ブルーノ・タウトはドイツ出身の世界的な建築家で、設計したベルリンの近代集合住宅群4件は2008年にユネスコの世界遺産に登録されました。 

そんなタウトがナチス政権の台頭によって日本に亡命した際、2年以上にわたって滞在したのが当山です。 

日本滞在中に設計した建築は熱海の旧日向家熱海別邸に限られるものの、彼が日本の工芸や建築に大きな影響を与えたことは間違いありません。当山には、彼が高崎に来て最初に設計した作品である「緑の椅子」が今も残っています。 

また、タウトの死後、当山には彼のデスマスクが納められました。これは「出来得るならば私の骨は少林山に埋めさせて頂きたい」との生前の希望を引き継いだものです。 

他にも当山には彼が居住した群馬県指定史跡 洗心亭や、「私は日本の文化を愛する」という彼が残したドイツ語の言葉が刻まれた記念碑があります。 

群馬県指定史跡 洗心亭 

❽将来の展望 

−最後に、副住職が描く将来の展望について教えてください。今後、どのようなことを大切にされていくのでしょうか? 

「人のためのお寺でありたい」というのが一番の願いです。 

これは今後、ということではなく、当山がずっと大切にしてきた変わらない考えです。 

これからも地元の方々はもちろん、ここを訪れたすべての方が心の安らぎを得られる場所であれたらと思っています。 

そんな思いからちょうど今年(2024年6月24日)開苑したのが、永代供養墓・樹木葬「四神乃杜」です。もともと当山はご祈祷をするお寺なので、檀家さんはほとんどいません。 

なので、お寺の中にお墓を作ったのもこれが初めてとなります。 

−なぜお墓を作ろうということになったのでしょうか? 

地すべり対策工事によって古墳時代の遺構が駐車場内だけでも7基の古墳があったことが確認されており、もともとこの場所は古くから来世の安穏を願って御霊を祀る場所でした。 

また、日々参拝者の方と接する中で、「ここで落ち着きたい」と思ってくださる方や、ご自分のお墓のことを心配されている方の存在を知りました。 

そこで、心の安らぎを感じてもらうため、ご祈祷以外にできることはないかと思案していたこともあり、お墓を作ることにしたのです。 

人生の終着点となるものを提供できれば、最後まで落ち着いた気持ちで過ごしていただけるのではないかと思いました。 

境内に咲く紫陽花 

他にも参拝者してくださる方のため、昨年から今年にかけては比較的規模の大きい取り組みを複数行っています。 

砂利だった駐車場をコンクリートに整備したのも昨年ですし、今年は境内のトイレをすべて洋式に入れ替えました。 

−さまざまな取り組みが進行中ですね。今後も何か計画していることがあるのでしょうか? 

11月には、達磨堂の建て替えが完成予定です。以前の達磨堂にもあった、日本全国のだるまさんを展示する場所に加え、ブルーノ・タウトに関する資料などを展示するスペースも設置します。 

また、現時点で御祈祷や御朱印などの受付をする寺務所は、本堂から階段を行き来しなくてはなりませんが、建て替えをした達磨堂にこの寺務所機能を移設する計画です。そうすることで、整備された大駐車場、本堂、寺務所を、階段で行き来しなくても済むので、参拝の方の負担を減らせると考えています。 

現在の寺務所 

特にご高齢の方にとっては負担が大きいと思うので、この一連の取り組みで、より誰もが訪れやすい場所にしたいですね。 

また、このような大きな取り組みだけでなく、日々気がついた小さなアイディアも、都度実現するように努めています。例えば、落ち葉アートも、ここ数年取り組んでいることの1つです。 

筆者がプライベートで撮影していたハートの落ち葉アート 

たしかSNSで落ち葉アートのようなものを見かけて、「当山にもせっかく落ち葉がたくさんあるのだから、やってみよう」と思ったのがきっかけでした。 

簡単なハートから作り出して、縁起だるまや北斗七星、一度は日本地図を作ったこともあります。 

最初は私だけが勝手にやっていたことなのですが、職員の人も面白がって、だんだんと真似して作ってくれるようになったんです。 

もともとは訪れる方の目を楽しませたいとの思いから始めたことだったので、普段掃除をしてくれる職員の人に楽しみを提供できたのは意外な発見でした。 

同じ落ち葉掃除でも、単純に「落ち葉がたくさんあって大変だ、掃除しなきゃ」と思うより、「落ち葉がアートになるなんて楽しい」と考え方を転換させたほうが仕事も楽しくなりますよね。 

まあ、落ち葉で作っているものなので、風が吹いたりすればすぐに形が崩れてしまいます。 

ときには作った途端に子どもたちが飛び込んでいって崩れてしまったりなんてこともありますが、子どもたちに自然を感じてもらったり、楽しんだりしてもらえればそれだけで嬉しいですね。 

それに、常にそこにあるわけではないというほうが、発見したときの喜びが大きいじゃないですか。 

他にも、訪れる方のためにできることはまだまだあると思います。 

これからも時代によって少しずつ移り変わるニーズを捉えながら、「人のためのお寺」という考えを実現するさまざまな取り組みをしていきたいですね。 

〈取材後記〉 

長い歴史を持ちながら、絶えず変化を続ける姿が印象的でした。開苑したばかりの永代供養墓・樹木葬「四神乃杜」も、いろいろな家族の形や生き方がある時代に求められるものを模索し続けた結果の1つです。 

数年後・数十年後には、また新たな姿を見せてくれるのではないかと、今後にも期待が高まる取材でした。 

少林山達磨寺 

〒370-0868 群馬県高崎市鼻高町296 

TEL:027-322-8800 

駐車場無料 

⚫︎拝観・受付時間 

寺務所・札場:9時~17時 
祈祷受付:9時~16時 
達磨堂:9時~17時 
売店だるだる:10時~16時 
だるま絵付け体験受付:10時~15時30分 

⚫︎アクセス 

車: 

・関越自動車道高崎インター、前橋インターより約30分 

・上越自動車道、藤岡インターより約30分 

・上信越自動車道、松井田・妙義インターより約30分 

・軽井沢より碓氷バイパス/国道18号を進み約1時間 

電車: 

・JR高崎駅からお越しの方 

【タクシー】西口より約20分 

【バス】西口1番乗り場より、ぐるりん(少林山線乗附先回り)に乗車し少林山入口下車約30分 

・JR群馬八幡駅からお越しの方 

【タクシー】約5分 
【徒歩】約20分 

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